ゆうが語る、フォークロア
その夜、8時頃のことです。私は母に代わって夕食の後片付けをしていました。
キッチンで洗い物をしている最中、
ふっと何気なく勝手口の扉の方に視線が行きました。
と・・・・。私は、ドアのノブに目が、文字どおり釘づけになってしまったのです。
そこには、、、左手と思われる手だけが、ドアのノブを握っていたからです。
「・・・・・・・・・・・・。」
私は洗い物を中断してその手を観察することにしました。
段々顔を近づけていきますが、その「手」は、消えません。
その時、「手」と私の距離はおよそ70pほど。まだ消えません。
「手」の産毛まではっきり見える距離まで近づいても、まだそこに「ある」のです。
それは、つやつやした爪の大変美しい「手」なのですが、私はなぜか
この手の持ち主は男の人ではないかと考えました。
およそ、5分ほど、私はその手を眺めていましたが、母に呼ばれて返事をしたら
消えてしまいました。
この手が現れた後、自分の部屋で勉強していると、窓をコンコン叩く音で
しばらく悩まされました。まったく、うるさかったのですよ。
それが「出た」時、もう少し驚いてあげれば良かったと、今になっては思うのです。
では、また明日の晩まで、お元気で・・・。
高校を卒業した翌年の夏も終わりに近づいたある日、
私と親友二人の三人は軽井沢を目指して車を走らせていました。
親友のYちゃんのアルバイト先である喫茶店のオーナーが、自分で持っている
別荘を夏の終わりなら自由に使っていいよといってくれたからです。
友達はギターにレコード、私は絵の道具一式とそれぞれがおもいおもいの準備を
して、夏休みの最後を楽しく過ごすはずでした。
早朝出発したのにもかかわらず、道に迷ったせいで
、山の上にあるその別荘を探し当てたのは日が暮れかけていました。
「・・・・・?」別荘は、まるで長い間無人だったようにかび臭く、陰気でした。
しかし、気を取り直して私たちは食料を買い出しに出かけ、
夕飯を終えてくつろいでいました。
ところで、私はアルコールが一滴も駄目な人間です。
今はともかく、当時は奈良漬も駄目でした。
私は夕飯に飲んだコップの水の中に、いたずらで入れられたほんのわずかの
白ワインで酔っ払ってしまい、二時間ほどつぶれていました。
一時は気分が悪く死ぬかと思いましたが、休んだお陰でなんとか元気が
出ました。が、変な時間に寝てしまったので、さあ、寝ようかということになっても
今度は眠れません。 気持ちよさそうに眠っている友達を横目に
寝返りを打つばかりで夜は更けていきました。
時計は、午前3時を過ぎていました。枕元で、何かを引きずる音がします。
それは、金属の鎖をひきずっているような、そんな音でした。私は何だろうと思って
枕元の電気スタンドのスイッチを入れて部屋の中を見渡しました。
すると、どうでしょう。部屋の隅に男がうつむいて立っており、
寝ている友達をじっと見ています。
私は、一瞬泥棒が入ってきたのかと思いました。
が、よく見ると下半身が透けているような感じです。
幽霊が出ちゃったな・・・と思い、
友達を起こしましたが友達は全然起きてくれません。
どうしようかなと思っているうちに、
私は金縛りになり、朝まで固まったままになってしまったのです。
朝日が出て、金縛りがやっと解けましたが身体はくたくたになっていました。
やっとのことで起きて、目を覚ました友に話すと、ただ一言。
「見ないでよかった!」朝になって気が付くと、
別荘は崖の縁の見晴らしが大層素敵なロケーションに建っています。
朝食を食べて、リビングからベランダに出ようとして3人ともわっと驚きました。
窓という窓に、人の手形が浮いてたのです。大人の手、小さな手、、、。
昨晩はもちろん、そんなものはありませんでした。
私たちは合理的に物事を考えようと、手形の原因をあれこれ議論しましたが、
結局結論は出ませんでした。
別荘には当初の予定より短い、三日間だけ滞在しました。
やはり、気持ち悪かったからです。
Yが後で別荘のオーナーに私の体験を話したところ、
「やっぱり、ね」と言ったとか・・・。それは、こういうわけです。
雪の降る日、チェーンなしで走ろうとした車がスリップして 崖から落ちる
という事故があったのだそうです。死亡事故だそうですが、
当時の私には、それを確認する手段は有りませんから、事の真偽はわかりません。
しかし、私が聞いたあの鎖の音はなんだったのでしょう。
求めてやまないチェーンの音でしょうか。
それを考える時、私は大変悲しくなるのです。
あの人は、今どうしているでしょう。
では、またの機会まで・・お元気で。
皆さんは、昨晩、ぐっすりとお休みになれましたか?私は、少々寝不足です。
と、いうのも、昨夜は家中が大音響。
見えないいたずらが好きな誰かが暴れていたようで・・・。
眠れない夜で思い出すのが、あの日の出来事なのですが・・・・・
それは、お彼岸の前の晩。私の一家はお酒がまったく飲めないのですが、
その代わり、といっていいのか皆、大の甘党です。
ですから、お彼岸の前日は私の母は大忙しでした。
翌朝おはぎを作るために、大量の小豆を煮て小豆あんを作っておきます。
私や父の楽しみは真夜中にこっそりと、そのあんこをつまみ食いすることなのです。
(いやしい、父と娘・家の恥)
その年も、私はライバルの父が眠ったのを確かめて、台所にそうっと入りました。
冷蔵庫に入りきれない小豆のあんこが、お鍋の中で待っています。
わたしは、お鍋のふたを静かに開けて、暗い台所であんこを食べ始めました。
その時、後ろから誰かに強く肩を叩かれました。
「わしにも、おくれよ。」
その声に振りかえると・・・。 私は胸が詰まるかと思う程、びっくり!
なんとそこには、数年前に亡くなった祖父が立っていたのです。
祖父も、もちろん、私たち以上に甘党でした・・・・。
では、又の機会まで、ごきげんよう。
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