ゆうが語る、フォークロア
今日、伯父の葬式以来数ヶ月ぶりの電話が従姉からありました。
従姉は会社を経営していますが、今度新しく福祉関連の会社を女性だけで
興すということで、私に意見を求めてきたのです。
久しぶりの電話なのでつい長話になってしまいましたが、
「そういえば・・・」と言って古い話を語り出しました。
これからお話しするのは、従姉の母であり私にとっては伯母が亡くなる前の
ある日の出来事です。
伯母は亡くなる前、糖尿病を患いその合併症の白内障のため失明しました。
大学病院で手術をしたのにもかかわらず、死ぬまで伯母の視力は戻ることはありません
でした。それは、手術を終えて自宅に戻ってきたある日の午前中のこと・・・。
従姉は、伯母の従姉を呼ぶ大きな声で、伯母のいる病間に駆けつけました。
伯母の寝ている二階への階段を慌てて上ったため少し息が切れた従姉は
「どうしたの?!」と息を整えながら伯母に聞くと、伯母が言うのだそうです。
「T(叔父)が迎えに来ている。Tが私の側に来ているから、もう私は死ぬんだ。。。」
Tと言うのは別の話の中でも書きましたが、私の母の弟です。
T叔父はある朝、クモ膜下出欠のため倒れ意識を取り戻すこと無く亡くなりました。
まだ働き盛りの最中の、あまりにも早すぎた死でした。
従姉は伯母が目が見えないため、昼寝をしているうちに夢を見たまま目を覚まし
現実と夢がいっしょになってしまって動揺しているんだと思ったのだそうです。
従姉は念のため部屋の中を見回してみましたが、特に異常は無く仕方ないなあ・・と
内心思いながらも従姉は騒ぐ自分の母親をなだめ、昼ご飯の支度に戻ろうとしました。
が、伯母は、「夢じゃない迎えに来た、ほら、また!」と尚も言うのです。
従姉は伯母の指差す方へ何気なく顔を向けて息を呑みました。
従姉は自分の後ろ・・・つまり、伯母の指差す室内に、大きな太陽のような明るい
光の玉が空中に浮かび畳の上をゆらゆらと揺れていたのを見ました。
その光の玉はたとえて言うならオレンジ色であるが、色があるようでない。
ないようで、ある・・・・。というものだったそうです。
しかし、真昼間にもかかわらずかなりの光を放ち、しかも恐怖心は微塵にも感じなかった
と私に話してくれました。
そして・・・・、その光の中にいるのは、確かに叔父だったそうです。
しかし、従姉は不安そうな伯母に言うしかありませんでした。
「なんにも、なかったよ・・・。」と。
従姉はそれを見たときから、もしかしたら自分の母親は駄目なのかもしれないと
密かに思い続けていたとのこと。
その伯母が亡くなったのは、従姉の亡くなったご主人の百か日の法要の日でした。
心臓麻痺で、突然あの世へと旅立ってしまったのです。
従姉は言いました。
あの時見た光の玉は少しも恐くなく、むしろ胸が温かくなるようなそんな光だったよと。
それではまたおあいしましょう・・・。
先日の休みの日、風邪気味だった私たちは遅くまで休んでいました。
昼を過ぎてもうとうとしていましたが、階下の足音ではっきりと目を覚ましました。
廊下をどしどしと行ったり、来たりする足音・・・。それはかなり派手な音でした。
が、車庫のフェンスも、玄関を開けた音もしなかったのが不思議でした。
休みの日になるとたまに同居人の両親が様子を見にやって来ることはありますが、
その場合は真っ先に各部屋の電動シャッターを開けて部屋に空気を入れるので
その音がかなり響くはずなのですが、その日は人の気配があるだけでした。
私たちはしばらく息を殺して下の様子を伺っていましたが、
同居人のQちゃんは「休みだから妹が様子を見に来たのかもしれない」と言って
寝室の窓を開けて下を覗き込みました。そして、
「ああ、あれは妹だよ。だって、今、くしゃみをする音がきこえたから・・」といいます。
自慢ではありませんが、私は「地獄耳」の持ち主と言われています。
しかし、私にはそんなくしゃみの音などは聞こえませんでした。
彼の妹は小柄で可愛らしいのですが、ずんずん響く足音は
まるで大男のもののようです。私は内心、すごい歩き方だなと思いました。
だから、Qちゃん曰く、妹は婚約者と一緒に部屋を見に来たんだよと言います。
しばらくすると突然気配も足音も消えたので、何しているんだろうね・・などと
話しながらやはり下の様子が気になったのでインターフォンで呼び出しましたが
応答はありませんでした。
下が気にかかった私は、様子を見に行ってくれるようにQちゃんに頼み、階下の
鍵を持って下に降りていったのです。私の脳裏には一瞬、ひょっとして、あの足音は
泥棒??かというような怖い考えが横切りました。
階下を開ける音がして、Qちゃんの足音が響きます。
誰かいたの?と戻ってきた彼に聞くと、「誰もいなかった・・・」
私たちは不思議でした。玄関も鍵は閉まったまま。
しかし、夜になって一階の玄関の自動センサー付きの灯かりが消えていたので
やはり誰かが来たんだねと安心しました。何故なら、玄関の灯かりは夜になると
自動的に付くようにスイッチは入れたままにしてあるからです。
スイッチが入っているのは前日私が確認し、その後は誰も触わってはいないはずでし
たので、たぶん室内の照明を切る時に間違えてスイッチをオフにしていったのだろう
と話していました。さもなければ、玄関のスイッチがオフになっていることなど
ありえなかったからです。ともかく・・・。
その時はそう思って安心し、再び玄関の照明のスイッチを入れたのでしたが・・。
昨日、Qちゃんが実家に電話をかけ妹に聞くと来ていないといわれたのです。
私たちの頭の中は「・・・?」
あの足音は、一体誰だったのでしょうか・・・・?
それではまたおあいしましょう・・・。
一昨日の昼のことでした。
私が寝室で片づけ物をしていると、誰かが階段を上ってくる足音が聞こえました。
日中はもちろん私一人ですし、玄関は電子錠も含めて二重にロックがかかっている
ので鍵のかけ忘れがない限り、誰かが入って来ることは考えられません。
私があれ?と思って階段の方に注意を向けると、目の前にやけに派手な格好をした
女性が姿を現しました。レースで飾り立てた襟元に濃い化粧、つばの大きな帽子を
かぶってうつむいていたその女性は、私が見ていると顔をあげ私をじっと見詰めると
消えました。それは、ほんの一瞬の出来事でした。
姿は見えないものの、その日は一日中「気配」がして少々鬱陶しい思いをしましたが
とりあえず私はそれは無視することにしたのです。
そして、昨晩から明け方にかけてでしたが・・・。
寝室は、まるで何かが狂ったようにざわざわと見えない人達の気配に包まれ
入れ替わり立ち代わり私に自分を主張し訴えかけてくるので
おかげで私は一睡も出来ないまま朝を迎えるはめになってしまいました。
今日は、徹夜明けの状態でしたが私は気分が良く、午前中には家事を済ませてしまい
午後からの届け物や人の訪問に備えていました。
しかし、やはり一睡も出来なかったのが災いしたのか、突然激しい睡魔に襲われ
私は立っていることが出来なくなり、リビングの床に座り込んでしまったのです。
覚醒と眠りの狭間で、私は必死に闘っていました。今、眠るわけにはいかない・・。
すると、私の目の前に見えない人々が次々に姿を現したのです。
最初に現れたのは、黒い学生服を着た中学生ぐらいの男の子でした。
「と・・と・うぶ鉄道・・。かすかべの駅の前で・・。誰かと約束してたのに思い出せない」
と、訴えてきました。わたしは駄目、出ていってと答えました。
「どうしたら・・いいのか、わからない・・・。思い出すまで、ここにいていい?」と
尚も聞くのでしたが、私は冷たく突き放しました。
すると、次に現れたのは、痩せた中年の女性でした。
彼女は、咽喉がひどく渇いたの、何か飲ませてください・・。そう懇願します。
私が何が飲みたいの?と聞くと、「牛乳」と答えました。
そのうちに、人型の黄色い毛だらけのものが現れ、部屋の中で暴れ出し
私に迫ってきたので、私は渾身の力を込めて立ち上がりました。
部屋の中は相変わらず気配に満ちていましたが、私は冷蔵庫から牛乳を取り出し
自分でも飲んで、供えました。
そのあと、すぐに家屋のメンテナンスの業者が来たり、届け物が来たりで忙しくなり
私の午後はそうして終わりました。
しかし、彼らをとりあえずは家から追い出したものの、そのまま捨て置くわけにもいかず
思案しているうちに時間はどんどん過ぎてしまいました。
私の自由時間はそうして台無しになってしまったのです。
そして、夕方まるで忘れるなというかのように、鐘を撞くような大音響が響いたのでした。
忙しい年末だというのに、わたしの「仕事」がまたひとつ、増えてしまいました。(12/17)
それではまたおあいしましょう・・・。
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