ゆうが語る、フォークロア
これは、第十八話の「迷い子」の出来事から二日経った夜の出来事です。
その日は遅くまでインターネットで遊んでいたために、休んだのはもう一時半を過ぎて
いました。いつ眠ったのかわかりませんでしたが、夜中に目を覚ましトイレに行って
牛乳を飲んでからベッドに入ると、布団をかぶるなりいきなり私を襲ったのは、
重い空気の固まりでした。
寝室に入った時から「気配」は感じていたのですが、まあいつものことであると
特に気にしていなかったので忘れていたのですが、目を覚まし起きた後
いきなり金縛りに遭うとは思いませんでした。
しかし、金縛り程度でひるむ私ではないので金縛りを解くと、寝ている私の枕元の上に
薄汚れたセーラー服を着た年の頃16〜7歳の、おかっぱ頭の女の子が「浮いて」いまし
た。そして、遠い目をしたうつろな表情で、彼女は私に言ったのです。
「あたし、地震で、死んだの・・・」
「いつの、どこの、地震?」私はうっかり返事をして聞いてしまったのですが
彼女は「大阪・梅田から一緒にこの人についてきた」と言うのです。
その時、小さな男の子の声が「違うよ」と言います。
ちなみに、この男の子は、私の側で私を見守ってくれているうちの一人なのですが
(こんなことを書いて、信じてもらえるだろうか?)同居人のQちゃんもこの子の声を
聞いています。夏の夜、7時頃ですが駅ビルの時計の時報が鳴ると同時にはじまる
花火のしかけを二人で眺めていた時に、突然Qちゃんが、あれ?と言ってきょろきょろ
と周囲を見回しているので、どうしたの?と聞くと
「今、子供のわぁいと言うはしゃぐ声が聞こえた」との返事。
私は、この男の子を色黒なので「黒ちゃん」と呼んでいます。私は彼がその花火のし
かけに喜んでいたのを気がついていたのですが、黙っていたわけです。そもそも、当時
はもっと重要な話をしていたのでそんな話題はあまりしませんでしたので・・・。
私は楽しくなり、あはははと笑い、Qちゃんも嬉しそうでした。
ところで、私はその「違うよ」の一言で一瞬にして理解しました。
「うそだな?!」
思わず怒鳴ったつもりですが、実際は寝ている人を起こさないように心の中で
大声を出していました。セーラー服を着て女の子の姿をした霊は、私のその問いかけに
「ふふふ・・」と笑い声を上げました。
この時、私はかなり腹が立っていましたが、お経をあげるからはやく行きなというと
そんなものは、いらないよと言いながら部屋の中を移動していきます。
これには普段あの世の人に優しい思いを抱いている私も「頭に来て」
数珠をふりあげました。すると、どこをどうなったのかその女の子の霊は
なんとも言えない叫び声と共に消え、しばらくざわざわとしていた部屋もまた静かな
いつも通りの寝室に戻りました。
その女の子の霊が現れて消えるまで、実に一時間以上も経っていたのです。
私は今のは殆どエクソシストの世界だと思いながら安堵しましたが、かなり疲れて
いました。私はのんびりいびきをかいて寝ている同居人を起こし、今の聞こえたでしょ?
なんで助けてくれなかったのかとなじりました。
同居人曰く「全然気がつかなかった・・・」
この真夜中の出来事ですっかり睡眠不足になった私は疲れてしまい、翌朝、寝坊を
してしまった次第です。
災いをもたらすこの種類の霊には気を許してはいけません。
いつもいつもフレンドリーな霊ばかりとは言えないのです。
あの迷い子の霊に便乗して、女の子の姿を借りて自分の存在をアピールすると同時に
私の同情をかちとり、あわよくばまつらせようと企んでいたのでしょうが、
母をはじめ御先祖などに守られている私には通用しなかったということです。
私は私を見守ってくれている見えない人々に、感謝しています。
私が無事に平穏な毎日を送っていられるのは、自分一人の力ではないと言うことに。
それではまたおあいしましょう・・・。
私はよく、真夜中にあの世の人々に揺り起こされて眠りを妨げられます。
今では大して驚くべき事ではありませんが、寝不足になるので心底かなわないなと
思ったものです。彼らの話すことと言ったらとりとめもなく、自分はこれこれこうして
最期を迎えたとか、お経を一つあげてくれだとか・・。つまるところ、あの世の人達も
きっと寂しいのだと思うようになりました。 しかし、人の話しを聞いていると大抵の場合、
彼らは無口であることが多いようです。
数年前、友人から電話をもらいました。彼女は笑えるほど怖がりで暗闇の中では
落ち着いて眠れないという性格。しかし、幸いなことに心底怖い思いをしたことは
経験ないと言っていました。その彼女から「幽霊を見ちゃった・・・」と言う電話なので
私は驚きました。しかも、彼女はとても落ち着いていました。
彼女は、彼女の御主人のお父様が亡くなって葬儀を終えた後、お墓がなかったので
遺骨をしばらく自宅で預かっていました。 そんな、ある日の真夜中のこと。
彼女は咽喉が渇いて目が覚め、リビングに水を飲みに起きました。
すると、暗闇のリビングの椅子に老人が座っていたのを見たそうです。
一瞬、「泥棒!」と思ったそうですが、よくよく見ると御主人のお父さんではないか?
「ああ、幽霊だ・・・」彼女は一瞬はっとしたものの、その姿があまりにもリアルなので
少しも恐怖感がわかなかったと言っていました。
彼女はうつむいて座っているその老人の背後をゆっくりと歩き、水を飲むとトイレに
行ったのです。トイレから戻ってきても、御主人のお父さんの「幽霊」はまだ消えずに
そこにいたとか・・・。電気を点けたら消えてしまうかもしれないと思った彼女は、
足音をしのばせて寝室に戻り、寝室の扉の影からその姿をみると
なんかとても寂しそうだったと思ったそうです。
私には怖がりの彼女が悲鳴を上げなかったことの方が驚きでした。
次は、私の体験です。
やはり、寝ている時のことですが、私は突然目を覚ましました。
時計を見ると明け方近くの4時半きっかりです。しかし、夜明けにはまだ間があるのに
部屋の中が異様に明るいのに気が付きました。
おかしいな?と思ってベッドから起きようとした時に私の見たものは・・・・。
私のベッドの足元に、全身真っ白の彫刻のような美しい顔立ちのロングドレスを着た
西洋人の女性の幽霊が横を向いて立っていたのです。
身長は170pほどで、床まで届く長い髪、大きな目、薄い唇・・。
しかし、その横顔は冷たく光を放ち、肩からかけたレースのベールが少し揺れて
いました。私はあまり幽霊に恐怖心を覚えることはないのですがこの時は、例外です。
今でもこの全身が真っ白の幽霊の姿は私の脳裏にはっきりと焼き付いており、
時々思い出すとぞくっとします。
私が声も出せずに驚いていると、その女の幽霊はゆっくりと私の方を向きはじめました。
その時、私は初めて「怖い」と思いました。
私は自分の髪の毛が、太くなったように思いました。恐怖で髪が逆立つというのは
漫画などでありますが、心理としてはあんな感じです。
その幽霊は、なんと私の方を向きながら、私がかけているベッドの布団を引っ張るでは
ありませんか。私は声にならない声を上げてベッドに倒れ、気を失ったのです。
気を失いながら私が見たものは、真っ白に光る女の腕でした。
後にも、先にも気を失うほどの恐ろしい経験はこの時以外したことがありません。
しかし、なんで・・・?
自分の部屋に見ず知らずの西洋人の女の幽霊が現れたのかは、今もって謎です。
それではまたおあいしましょう・・・。
それは私が18歳になった年の夏のことでした。
夏休みになったばかりのある日の午後一時半。私は友人との待ち合わせの喫茶店へ
行くために大通りから外れて近道の商店街に入って行こうとしていました。
目的の喫茶店はもう目の前なのでゆっくりと歩いていると、大勢の人に混じって
とても素敵な 男の人がこちらへ歩いてきます。
当時流行っていたブリーチアウトのブルージーンズに、白いTシャツ。
同じ色のGジャンを着た髪のちょっと長いハンサムな男の人がこちらに歩いてきます。
その人があまりにも素敵だったので、私は思わず見とれてしまいました。
その人の顔ばかり眺めて、私とその人は近づいて行ったわけなのですが
彼との距離が5メートルほどになった時に、あれ?と思いました。
何故なら、その人の両肩にはなんと言ったらいいのでしょう。
50pぐらいの小さな小人のような生き物が乗っているのです。しかも、彼の頭を
ぐいぐいと締め付けるようなそぶりまでして。そして、その人の左の脇の下にも、
もう一人。ぶら下がるような格好でしがみついているではありませんか。
だんだんその人との距離が迫るにつれて、その「小人のようなものの」の顔が
はっきりとしてきました。
その人にくっついている彼らは、真夏だというのに黄色と黒の縞模様のぼろぼろの
セーターを着ていて、毛糸のほつれまでくっきりと見えるのです。
髪の毛はざんばらに近いおかっぱのように刈ってあり、顔は真っ黒に汚れ、口の周りは
かさかさ。しかも、左右の大きさが違う目玉だけがぎょろぎょろと回りを見回しています。
こんなに大勢の人がその人とすれ違っているのに誰も変だとは思わないのでしょうか。
私は最初、変な人形か何かをその人が持ち歩いているのかと思いましたが
確かに生きているのです。何故なら、動いていましたから・・・・。
私がぽかんとして立ち止まってしまうと、その人は私とすれ違っていきました。
すれ違った瞬間、その人の肩に乗っていた生き物が、首をぐるりと回転させて私の方を
見るとにやにやと笑いました。恐怖心はありませんでしたが、しかしつぶれかけた
その生き物の顔は不気味でした。
私がぼうっとしているうちにその人が脇道に入っていったので、私は待ち合わせの
喫茶店がもうすぐそこなのにもかかわらず、急いでその脇道の出口の方へ走って先回り
しました。細い路地の出口から少し入ったところで待っていると、その人はやってきまし
た。しかし、前方から来るその人に乗っていたものは、今度はその人の両脇に移動して
おり肩に乗っているのは一つになっていたのです。狭い道でその人はすれ違うと
私ににっこり笑いかけました。
私は去っていくその人の後ろ姿をしばらく見詰めていたのですが、
彼の足取りはふわふわとなんとなく頼りなげでした。
真夏の午後猛烈な暑さの中、Gジャンを着ているその人も変わっているなと思いました
が、彼の身体にしがみついていた醜い顔の人は何だったのだろう。
それが確かにこの世のものではないことだけしか、私には分かりません。
今でも、謎なのです。
それではまたおあいしましょう・・・。
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