ゆうが語る、フォークロア
長らく御無沙汰しておりました。この間、いろいろなことがありましたが、今日は
先月の台風の後に遭遇した、ちょっと胸が詰まるようなお話をしたいと思います。
同居人のQちゃんが神戸への出張から帰って来た二日後の夜9時頃の事でした。
私たちはテレビをつけたまま新聞を読んだり、本を読んだりして思い思いにリビングで
くつろいでいました。と、「ん?」とQちゃんが振り返りました。どうしたの?と聞くと
「誰かが肩を触わったような気がした・・、気のせいだね」と言いました。その時は、
別にそのことにこだわるでもなく、またニュースを見てみたりして過ごしました。さて。
夜も更けたので、私たちは休むことにしました。
私には寝る時に癖があって、いくつかの決まった姿勢をとらないと眠れないのですが、
その日は左側を下にして横を向いて、いろいろなことを考えるともなく思い至らせていま
した。ベッドから手首だけがはみだしている格好なので、手首を捻挫したら嫌だな、
そう思いながら自分の手首を眺めていると・・・・
ベッドの端に、小さな可愛い白い手が何かを探すように動いているのを見ました。
「ん・・・?」私は少し身体をずらしてその手をよく見ようとしました。すると、
その小さな白い手が私のベッドから出ている手を掴まえてしっかりと握ったのです。
体温も何もない、単なる物体のような・・・・。でも、確かに小さな手でした。
私は横になっていましたが、手があるなら体もあるだろうと思ってその小さな手を
ぐいっと自分の方に引っ張りました。すると、ずるずると身体が私の横になっている
ベッドの上まで上がってきたのです。
それは、6〜7歳の男の子でした。私はその男の子に優しく話し掛けました。
「どうしたの?いくつ?どこから来たの?」
その男の子は、「にしのみや・・」とか細い声で応えました。そして、さらに・・・。
「お家に帰れないの。お父さんとお母さんがいないの、どこにも行けないの」
とても悲しそうなその男の子を見ているうちに、私はこの子が愛しくなってしまい
思わずその子を自分の胸に抱き寄せ、思いきり抱きしめました。
私はその子をしっかりと抱きしめながら、心の中で彼に話し掛けました。
「僕はしんじゃったんだね、行くところがわからないのなら、ずっとずっとここにいても
いいよ。でも、いい子でいてね。いたずらしないでね・・・」
それから私は般若心経を三度唱えました。するとどうでしょう。
彼の身体から湧いてでたような様々な小動物が一目散に逃げていくではありませんか。
事故で轢かれたのでしょうか、足の取れた猫や、血まみれのうさぎ、つぶれかけた
ハムスター・・・。そして、毛虫のような変な生き物が部屋の中に散ったと思ったら
あっという間に消えました。さっきまでぶよぶよしていたその男の子の顔が、
可愛らしい顔になっていました。そして、ありがとうというと私の腕の中から消えました。
時計を見るとほんの15分ぐらいの出来事だったのに、私には一時間にも二時間にも
思え、なんだかぐったりと疲れてしまいました。
隣で寝ているQちゃんを起こすとすぐ目を覚ましたので、私は今の事を話しました。
実はその男の子の名前もちゃんと聞いたのですが、今日に至るまでの日常生活の中で
私は忘れてしまいました。
印象的だったのは、彼の身体から離れていった小動物の数々です。
寂しさの中で、彼は不幸な形で命を落としたいろいろな友達を見つけては連れて
歩いていたのでしょう。
そんな物の必要のない、新しい世界へ彼が旅立てた確信が私にはあるのですが、
それを話せば長くなるのでこの話はこの辺で終わりとします。
その二日後、もう一度似たような経験をすることになりますが、それはいずれまた・・。
それではまたおあいしましょう・・・。
その日午後9時頃のこと、買い物に出かけていた私は帰宅を急いでいました。
家の近くの病院の前まで来た時、突然、咽喉から胸にかけて激痛が走り
歩くことができなくなってしまいました。こんなことはもちろん、初めてのことです。
私は道端にうずくまり激痛をこらえていましたが、もしこのまま痛みがひどくなるようなら、
病院の人に助けを求めようと病院の夜間診療の窓口の方へ、
それこそはうように歩いて行きました。
呼吸するのも苦しく、まるで心臓をぎゅっとつかまれているような感覚でした。
夜間診療の窓口まで歩いてきた途端、私の脳裏にもうしばらくあっていない
伯母の笑顔が浮かんだのです。伯母は私の死んだ母の長姉で、私が赤ん坊の頃から
実の子供よりも可愛がられていました。
もちろん、大人になっても懐いていましたが、伯母は病気のために箱根の温泉病院で
療養中でしたのでなかなか会いに行くことはできませんでした。
私が、あっ、おばちゃん・・・と思った瞬間に、今まで苦しかったのが嘘のように
胸と咽喉の痛みは消えていました。
胸騒ぎのした私は大急ぎで家に帰り、従兄の家に電話をしました。
すると・・・。私は知らなかったのですが、伯母はつい最近中野の従兄の家の近くの
病院に転院して来ており、検査の結果肺癌が見つかった・・というのです。
しかも、末期も末期・・・伯母の残された命は、後、一週間か二週間だと
いうではありませんか。別の疾病だとはいえ、一年近く温泉病院に入院していたのにも
かかわらず、命に関わるような重大な病気を発見できなかった事実に
私は衝撃を受けました。
従兄は私に、相変わらず勘が鋭いなぁと実にクールでした。ちょうど電話しようかなと
思っていたのだけれど、私のことだから電話しなくてもかかってくるだろうと思っていた
というのですね・・・・。それはさておき、翌日ー。
私は妹と妹の子供を伴って病院に駆けつけました。
私を愛してくれた優しい伯母は、意識もほとんど無い状態でした。。不思議なことに
伯母の病室には、ゆらゆらと揺れる影がせわしなく出たり入ったりするのが見えました。
従姉が、私にそっといいました。「この病室、なんか変なの・・・」
お見舞いを終えて帰ろうとする時、4歳になる甥が突然私にいいました。
「ねぇ、ゆう、あのおばちゃんの寝ているところに風船がいくつも浮かんでいたよ。
お腹のところに、いっぱい」
私と妹は思わず顔を見合わせてしまいました。もちろん、風船などあるはずはありません
それから、一週間後の明け方のことです。
ふっと目を覚ますと寝床の横に伯母が座っていました。
伯母は畳に手をついて私に向かって深々とお辞儀をしています。
「今まで、本当にお世話様でございました・・。さようなら・・・・」
私は伯母が、たった今息を引き取ったのだろうと理解しました。明るくなってから
私の家に電話がありました。伯母が亡くなった知らせでしたが、私は驚きませんでした。
何故なら、伯母と最後のお別れの挨拶をすることができたからです。
それではまたおあいしましょう・・・。
<第十六話〜後日談その2〜> (´ー`)
これからお話するのは、第12話「虫の知らせ」の後日談です。
幼い子供を二人残し、不慮の事故で逝った従兄の御主人が私にあることを
知らせたかったのでしょう。彼は何故か私の前に現れ、訴えていきました。
それは、一昨年の夏の、昼さがりのある日のできごとでした。
なにしろ、常日頃慢性の寝不足状態なので、オフの日は好き放題・・・・。
食事を終えてくつろいでいた私は、フリーランスの気ままさで、テレビをつけ見るとは無
しにぼうっとしていました。
私の名前を一心に呼んでいる誰かの声が聞こえました。かすかに聞き覚えがあるのに
なかなか思い出せなかったのですが、次第にはっきりと聞こえてくるにいたって、
私はそれが亡くなった義理の従兄のものであることに気がつきました。
すると・・・・。目の前に突然映画のシーンのように色々な光景が展開されたのです。
綺麗に磨き上げられた青い新車。深夜と思われる風景・・・。突然目の前に迫ってきた
電信柱。激しい衝撃音と全身を強打するような痛み・・・・。
私は自分の身に起きた一瞬の出来事に目眩を覚えて倒れそうになりました。
バーチャルリアリティの世界に飛び込んだような感覚でした。
そして、さらに亡くなった義理の従兄は私に話し掛けてます。
自分の衣服がぼろぼろで情けない思いをしているから、たんすの中にある自分の
一番気に入っていた灰色のズボンを仏壇に供えて欲しい・・・。彼はそう言うと、
裂けたズボンとポロシャツの姿で私の前に一瞬現われて消えました。
私はしばらくの間考え、今起きたことを整理しようと努めました。
半日ほどいろいろと考えていましたが、夕方、思い切って従姉に電話をすることに
決めたのです。実は彼女は、縁あって再婚をしていたのです。
そんなこともあって私は「よけいなこと」を言うことになりはしないかと悩んだ訳ですが、
わざわざ訴えて私の前に姿を現した義理の従兄に私がしてあげられることといったら、
彼の「気持ち」をそのまま従姉に伝えるしかないと思ったのです。それに・・・。
度々私のところに出てこられても、正直困るなというのもありました。
突然の電話に従姉は驚いていましたが、私が昼間起きた出来事を話すと、
実は亡くなった彼が夢枕に立って何かを言っていたのだか全然わからなかったと
言いました。今の御主人の手前、相談することも出来ずにどうしたらいいかなぁと
思う毎日だったそうです。
亡くなった彼の思い出の品のいくつかは、再婚の御主人には黙ってそっと
タンスの奥にしまってあったそうです。その中に彼の気にいっていたという灰色の
ズボンも確かにありました。でも・・・何故。
義理の従兄はぼろぼろの姿で私の前に現れたのか?不思議に思って従姉に逆に
訪ねると・・・・。
病院に運ばれた彼の身元がわかって、連絡を受けた従姉が駆けつけた時、
彼は既に息を引き取っていましたが、緊急の治療のために彼の衣服は上下とも
はさみでずたずたに切られていたということでした。
たぶん、それじゃないかな?と。
後日、従姉から電話がありました。再婚した御主人に話して、彼の遺品を仏壇に
お供えしたそうです。その晩、従姉は亡くなった彼の夢を見たそうです。
彼は供えられた服を着て、嬉しそうに手を振りながら誰かと一緒に山に登って行く・・
そんな夢だったそうです。
それとその時に言われたのですが、事故を起こした車が買ってからまだ一週間しか
経っていない青い新車だって言うこと、どうしてわかったの?ときかれました。
営業車だし、両親にも誰にも話していなかったのに・・・と。
それではまたおあいしましょう・・・。
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