《ゆうの大学病院入院体験記》
ゆうは本気で、病院へ行った。
PART3〜検査前日〜
入院も三日目になると検査の他は何もすることがないので、さすがに飽きてくる。
しかし私は、看護婦さんと担当の医師の言い付けを良く守る模範的な患者だった。
私の担当は、私の手術を執刀する講師のM先生と毎日の容体を見に来る担当医の
T先生、それに研修医で主に血液の採取や注射を受け持つH先生の三人。
H先生は25歳。茶髪の大男で、私がいつもウォークマンでヘビィメタルを聴いて
いるので何のCDなのか、興味シンシンといったふうにあれこれ話し掛けてくる。
入院初日に私はハートとクマ柄のパジャマを着て、腰まである髪をお下げに編んでいたのでカルテを見るまで20歳ぐらいの学生だと思っていたらしい。
童顔の私は先生よりも年下だと思われていた。
他の先生や看護婦さんは丁寧な話し方なのだが、H先生はほとんどタメグチで、
まるで軽薄なナンパ野郎といったノリなので、ベッドをあげてくれとかテーブルを
寄せてくださいね〜とか言って、私も入院中はH先生をいろいろな雑用にこき使った。
H先生は見た目はともかく、嫌な顔ひとつせずにニコニコしながら手術後の動けない私を気遣ってくれたことを今でも感謝している。
さて、水曜日は週に一度のシーツ交換の日らしい。
私はまだ三日目なのでリネン類の交換はなかった。部屋にヘルパーさんが二人やってきて手早く次々に交換して行く。向かいの寝たきりのTさんとSさんのベッドは、
二人が順番にリフトで運ばれて入浴している間にシーツを変えて行く手はずのようだ。
一通りシーツ交換が済んだ後、一時静寂が訪れたのだが、向かいの姐御のHさんが
大きな声で騒ぎだした。そして、看護婦さんや担当の先生を捕まえてはがらがら声で
文句を言っている。私の名前を呼ぶのでなんですか?と尋くと
「おたくのシーツは継ぎがあたってないかい?」と言うのだ。
しかも、入院してから4ヶ月、継ぎの大きさが座布団程もある、こんな継ぎの当たった
シーツはちょっと、ひどすぎやしないかいと言うのである。
ちょっと見て見なよ・・・と言うので、私はHさんのベッドを覗いたら、なるほど、
座布団よりもやや大きな布で破れたシーツに継ぎを当てていた。しかも、それはちょうどお尻の辺りなのでゴワゴワしていて寝心地も悪そうである。
前の寝たきりの二人もそれを聞いて、私のも見て・・というので見てみると確かに継ぎの当たったシーツが使われていた。
しかも、入院が古い順に継ぎの範囲が大きくなっているのは気のせいだろうか・・・・。
あんたのは、どうなの?と言われたので、私のは新しいシーツでしたと言うと・・・・。
Hさんは、いまいましそうに私を見据えてこう断言した。
「今に見てみ、あんたのも少しずつ継ぎが当たってくるかんね・・・」
そして翌週・・・。Hさんの予言は、見事に当たった。
交換された私のシーツは、今までのような新品ではなかった。
500円硬貨大の穴を繕った後があったのである。
ところで、私は、この大部屋の差額ベッド代がタダになるのをこの時まで知らなかった。‘‘継ぎ当てシーツ事件’の騒ぎの中でHさんが文句を言っていたのだが、
「ここは大部屋で差額ベッド代がタダだから病院もシーツをケチってんだよと。」
という言葉が気になって仕方なかった。
私の左隣のxさんに確かめると、ここはベッド代がかからないのよ、と言うではないか!
この大部屋は病棟の一番奥の隅っこになっていて、しかも下には調理場があるため
一日中患者の食事を作る臭いが窓から入って来る。
そのため、新鮮な空気を吸いたくて窓を開けても食べ物の煮たり焼いたりする匂いが
かえって気分を悪くする時があるので随分困った。
梅雨の湿った空気と一緒になって、入院中、これだけは不愉快だった。
ともかく、私はこの病室の差額ベッド代を払わなくて済むことがわかって、とても嬉しかった。 個室は最低1万2千円からなのでこのまま大部屋にいてもいいかな?と思った。
入院二日目にしてSさんの下僕と成り果てた私は、このままでは耐えられないと
思い詰め、実は昨夜こっそり看護婦さんに病室が空いたら移してもらえるよう頼んでいたのである。
しかも、明日はいよいよ本格的な検査の第一弾、ミエログラフを受ける日だ。
この検査の準備のため、同意書を書いて提出したり血圧を測ったり、点滴を受けたり
で私の一日はそれで終わった。
しかし、同意書など、何故書かなくてはならないのだろう。たかが、検査ではないか!?
担当医のT先生は、私の検査の後出張が入ったとかであわただしいし、茶髪のH先生も
何やら忙しそうであるし、用意周到をモットーとしている私にとってはいささか
今のこの事態は不本意ではある。
詳しいことを気の済むまで、納得の行くように説明を受けたいのに、機会を待っているうちに夜になってしまった。
この上は、明日の検査の後、一度もトイレに行かなくて済むように、絶対に水分は
摂らないようにしようと心に誓い、私は就寝を迎えた。
その夜、私はイングヴェイ・J・ マルムスティーンのVENGEANCEを聴きながら眠りに
就いた。VENGEANCE、「復讐」う〜ん、なんてクールな曲だろう・・・。
この時の私は、明日受ける検査の恐ろしさをまだ少しもわかってはいなかった。
この検査のために、後々何年も苦しむことになるだろうとは・・・・、
一体誰が予想し得たであろうか ・・・・。
その夜の私は、差額ベッド代がかからないことを知って機嫌が良かったし、
同室の人にもいじめられることがなかったのでまことに幸せだった。
この続きは、次回にまた・・・・。
Copyright(C), 1998-2009
Yuki.
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