紫陽花
私の紫陽花は知っている。
あの時、私のこころを打ちのめしたのが
温かい湿り気を帯びた7月の雨ばかりではない事を。
針のように細く、しかし途切れることの無い雨は
空から落ちてくるとささくれだった私に痛かった。
私の紫陽花は濡れていた。
梅雨晴れの日差しの中で 乾いた土に根を張って
それでもさながら許しを請うように 頭(こうべ)をたれながら。
一粒のしずくすら注がれる事はなくとも
ただ、そこにあるだけの姿は泣いていた。
私を映して鏡のように。
私の紫陽花は咲いている。
今だけのこの瞬間のために咲いている。
いたわりに満ちた美しい色をみせて
ふりそそぐ雨の中で 今年もそっと。
Copyright(C), 1998-2009 Yuki.
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