カレイドスコープ
「はるか彼方に在るというそれは
ある時は身近に感じる事さえあるのに
人はそれに触れる事すら叶わない。」
けれどもそこがどんなに遠くにあろうとも、わたしは・・・
恐らく諦めることはないでしょう
たとえこの先の道がいかなる困難に遮られようとも
遠回りしてでも、這ってでも到達したい所なのです。
何故なら、そこには私が私であるための私へ至る道が集約しているからです。
私のいるこの世界は、とりどりの光と影に満ち溢れ美しい。
その一つ一つをこの手に取って確かめながら、前へ、前へ。
時には自分が広大な万華鏡の中に飛び込んだかのような
錯覚に目眩すら感じるけれど、私はそれでも
尚も歩いて行かなければならないのです。
ある日私は崩れかけた崖を踏み外し深い海に溺れかけた。
果てしなく広がる暗黒の水中に投げ出されました。ただひとりで。
もしもこの世の果てというものがあるとしたら
間もなく訪れるであろう嵐の一吹きで私はそのままそこに流されていたでしょう。
泳いでも泳いでも波は荒く幾度も迫って
私は呼吸が止まる寸前の苦痛に喘ぎました。
苦痛を自覚した時に、突然視界が開け
私は元の平坦な道に立っている自分に気がついたのです。
しかし、この苦痛は幻想でもなんでも無く
私の姿はさながら襤褸を纏った老いた一人の人間に過ぎない事を
あらためて知り愕然としました。
何かを知るたびに、なにかが自分から剥がれ落ちていく・・・。
重い肉体という衣を着た私は
幾度も失敗を重ねてもまた歩く道を探りはじめるのです。
私の見たいもの・・・その「真実」はひとつなのだけれど
そこに至る道にはまやかしの存在が
様々な色や形を変えて私を試すかのように立ちはだかります。
惑わされる自分に苛立つ事無く歩けるような気がしてきたのは
そんなに遠い過去の事ではないけれど・・・・。
自分の今いるここを少しずつ進んだり退いたりしながら
いつか、遠い頂きに在る物をこの目で見たいと願いながら
一生を終えるのかもしれません。
あるいは、すぐ側で私が躓きながらも愚かな格好で
歩いているのを見守ってくれているのかもしれません。
ただ、それに気づく心が無いだけなのかもしれないけれど、
私はそうやって、今日も自分の意志で生かされているのです。
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