虎落笛(もがりぶえ)
閉ざされた闇の向こう側に灯かりがあるのを
知らなかったわけではないけれど
あの頃の私はまるで歌を忘れたカナリアのように
自分のこころを謳うことは出来なかった。
わたしの魂は荒涼とした厳冬の空間にさ迷い
その傷みに夜毎うめき続けた。
それから・・・・・。
あたかも引き裂かれた魂が叫ぶかのように
打ち寄せては砕け散る、波の荒いの海の底を見下ろしながら
私は幾度も幾度もそこに飛び込んでいく自分の姿を想像していた。
あの頃、それはわたしと共にある唯一の存在だったに違いない。
瞼を閉じるとやって来る、果てしなく長い夜の静寂を突き破りながら
ある時は、わたしの葬送の曲であり
また、ある夜は哀しみに濡れて打ち捨てられた姿をくっきりと
浮かび上がらせるBGMとして・・・。
哀しみの呪縛から解き放たれた時
只の風の音になったのは、ずっとあとのことであった。
【虎落笛】
冬の烈風が柵、電線、垣根などに吹き付けて
笛のような音を発するのを言う。
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