12月の月はどっちを向いても悲しい・・・。
その年の冬・・・。
真夜中になると私は非常灯ひとつで照らされた
暗い病室の窓辺の簡易ベッドの上に座り、夜空を眺めるのが習慣になっていた。
張り詰めた12月の深夜の空気は凛としてあくまでも厳しかったが、
しかし私には温くさえ感じられた。何故なら、
私は唯一自分の感情をさらけ出せるのが、外の世界・・・。
つまり、寂しい病室の壁から眺める四角に切り取られた窓の向こうの
小さな宇宙が、病室という閉ざされた空間に存在する私と
外界を繋ぎ、私のこころに優しく横たわっていたのだ。
夜の暗さや、寒さなど五感に感じられる印象などどうでも良かったのだ。
ただ、私と共にある・・・。同じ時間を共有していることが問題だったのである。
月の満ち欠けについては、それまで特に感心は持たなかったけれど
ある一定の法則に従って変化して行く月の表情が
いつしか、私に宇宙と命の神秘を気づかせてくれることになった。
全ての命は、それをまっとうする時期が近づくと
ある意思によって残りの定められた時間をいかされているのだ。
ある夜など、私はずっと空を見上げて月の動きを追っていたことさえある。
そうすることで、現実の厳しさのなかで、しばしば胸が張り裂けそうになる感情を
押さえることができた。
もしも、私が自分の命の終わりの時を選べるのなら
朝の光がこの世にある全ての生き物をその優しさで染める一瞬の狭間に
暗闇の中に漂うように旅立ちたいと思う。
そして、朝日が夜露に濡れた植物を抱きしめた時に
私は一滴の露になって終わりたい。
Copyright(C), 1998-2009 Yuki.
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