降り注ぐのは銀の糸
しなやかなベージュの毛皮をくねらせて
雨の日の午後を遊ぶ
私の足元にからみつく可愛い魔物は
時々私をじっと見据えて
何かを訴えるように小さく、そして短く鳴く
そっと撫でれば無防備な仕草で
奇妙な音をたてて咽喉を鳴らし
精一杯の愛想で
私の心を喜びでくすぐる まったくおまえときたら。
この広大な天から降り注ぐ雨の下で
いつの間にか一緒に暮らし
怒ったり、ないてみたり
おまえの命はどこから来たのだろうね?
そして、いつかどこへ行くのだろうね?
私は わがままに振り回されることに慣れ、愉快に笑っている
いつのまにか それが当たり前の
日常の一こまになった
それはいつからなのか、思い出せない。
去年の今頃、おまえは掌に乗せて握り潰せるほどの
小さな身体で この大地をよろけながら踏み出した
ひもじいお腹を抱えて必死に生きていたはずだのに
この雨の冷たさを覚えているだろうか
去年も、同じ雨が大地を濡らし
そしてつかの間にみせる太陽の耀きは
あるいは灼熱の乾きを伴っておまえを苦しめただろうし
全てのものを晒す光の強さに怯んだかもしれない。
しかし 空から注ぐその光の乱舞は
この世のあらゆる いのちと生き物を
美しいコントラストで見せてくれた
そんな季節がここにあるのを
お前はこの世に生まれて知っているだろうか。
それとも 小さな身体を震わせながらも
じっと耐えていたおまえの青い真ん丸の目玉には
終わりのないおもちゃの糸の切れ端に
みえていたのだろうか
この午後の薄明かりに光る銀の糸のような細い雨は。
悪戯なおまえが水を弄んでいるときに
ふと私はそんな呑気なことを考えて胸が痛むよ。
よく生き抜いて私の元に来てくれたね
6月は冷たい
6月は息苦しい
すべてのいのちに
願わくば冷たい針の先端が突き刺さるような
そんな想い出ではなく
あたかも天からそっと降ろされた
銀の一筋の糸にみえるように
黄金にも等しいぬくもりを連れてくる
銀色の優しい糸のようになりますように
そして
それらを集めて心にそっと編めば
やがて小さないのちを力強く育む
「熱い」季節になるんだということを
どうか伝えて下さい あの人にも
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