雨天の月
汚泥にまみれるのを嫌ったら、
その蓮は美しい花を咲かせない
氷雨の冷たさを厭うのなら
雨上がりの眩い陽光の温もりを享受できるはずもなく
黄金(こがね)の輝きのみを頼りにし 追い求める人生には
時として、路傍に芽吹く命は見えてはこず・・・
先人の何億万回と踏みしめられた道を
ただ歩いているのに過ぎないのに。
戸惑いと誘惑が そここに口を開いて
自らを落とすのを待ち受けているとは。
うち捨てられた魂が
再び自らの衣を拾いあげ身にまとい 歩き始めるまで
己の生み出した呪縛からは放たれることはなく
迷妄の中に未来は描けず
その有り様は修羅の如くあり
その目に映る天は 限りなく漆黒の色を見せる
しかし、たった一人のささやかな
迷えるこの命の中にすら 大いなる世界が横たわっていた
時には死人(まかりしひと)への懐旧の涙にくれ
扉は開かず、押すも引くもままならずとも。
すべては無限の彼方へ続き 生かされる自分を知る
そして、耳を澄ませば聞こえてくる。
眼を開き空を仰げば見えてくる。
大地にそそぐ光の音を。
曇天の、雨天の向こうに 常しえに煌々と照る月を。
その日、その夜。私はそれを見た。
(平成12年10月14日/西日暮里・和音矢野司空上人尺八説法会ライブにて)
この拙文を谷性寺 矢野司空上人へ捧げます
そしてこの日、同じ時を共にした友人と
いつか共有するであろう未来の友人へ。
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